血管炎症・血管再生解析グループの研究内容

血管炎症を中心に基礎的な研究を行い、内皮機能改善やプラークの破綻のメカニズムの解析などを目指している

脂肪細胞由来幹細胞(ASC)による再内皮化促進および新生内膜増殖抑制効果に関する研究

冠動脈形成術の歴史において、冠動脈ステント留置術は、POBAによる解離形成をbail outするものとして標準的治療法となった。大きな問題として残った再狭窄も、薬剤溶出性ステント(DES)の登場により、解消されつつある。しかしDESにも負の側面があることが問題となっている。薬剤の効果で新生内膜(平滑筋)の増生は抑制されるが、同時に血管内皮細胞の再生も抑制するため、血管内皮細胞層の欠如が遷延し、ステント内血栓症のリスクが長期化する。またDESを留置された血管が冠攣縮を起こしやすくなるという事象(DES留置後の冠攣縮)も、同様の血管内皮障害の遷延によると考えられる。このような薬剤に伴う負の側面は容易には解消されず、DES留置もまだベストの治療法とはいえない状況である。

免疫抑制剤に頼らないステントとして、Bare Metal Stent(BMS)に各種の幹細胞(抗EPC抗体など)や(酵素)タンパク(eNOSなど)、あるいは細胞毒性のない薬剤(スタチンなど)を併用して、血管内皮細胞の再生促進、および新生内膜増殖抑制を図る方法が研究されており、少なくとも動物実験レベルではある程度の効果を示している。

我々の研究グループでは従来より脂肪細胞由来幹細胞(ASC、adipose derived stem cells)の性質おびその臨床応用について研究してきた。ASCは皮下脂肪から局所麻酔にて採取可能であり、幹細胞の中でも採取しやすく、臨床応用への敷居も低い。ASCは下肢虚血での血管再生において効果が確立しているが、一方ではその投与にて内皮細胞障害後の再内皮化を促進する効果もある。BMS留置にASC投与を併用することで、生理的な再内皮化の促進が達成され、その効果として新生内膜の増殖が抑制されるかを検証することを目的とする。

以前我々は血管炎症モデルである、ラットwire injuryモデルにおいてEGMで培養されたASCを投与すると、新生内膜増殖抑制効果が得られ、再内皮化が促進したと報告した(図1)。この効果はASCが直接的に血管炎症部位に生着することによらず、パラクライン因子による新生内膜増殖抑制が主体であった。このパラクライン因子の一つにAngiopoietin-1が関与していることを報告した(図2)。しかしながら、新生内膜増殖抑制効果は様々なパラクライン因子が複雑に関与している可能性があり、今後各因子の検討および網羅的な主パラクライン因子の同定を検討する予定である。

血管炎症1 血管炎症2

次いでラットの腹部大動脈にBMSステントを留置し、同時に腹部大動脈周囲に培養されたラットASCを投与する研究を行っている。14日後、および28日後に内皮細胞の回復効果を定量評価し、また同時に樹脂包埋切片にて新生内膜の増生抑制効果を定量評価した。ASCの主たる効果は各種パラクライン因子の作用と考えられているが、どの因子が有効であるのかを調べるため、BMS留置時に、血管腔内に想定されているパラクライン因子を発現するアデノウイルスを投与する群についても同様の、内皮細胞の回復効果と新生内膜の増生抑制効果を定量評価する。バルーン拡張(POBA)モデルにて、7日後にASC投与群で非投与群と比べて明らかな再内皮化が確認された。一方でDES(SES)留置モデルにおいては明らかな効果を認めていない。これは免疫抑制剤が生理的なパラクライン因子による反応をおおむね抑制してしまうためと思われる。BMSモデルは金属という慢性的な障害が血管に加わっている点でPOBAモデルとは異なる。またDESと違って免疫抑制剤が塗布されておらず、生理的なパラクライン因子による反応は保たれると期待されるため、ASC投与などで明らかな内皮細胞回復効果および新生内膜増殖抑制効果が得られるものと期待され、免疫抑制剤によらない再狭窄を減少する新しいステントの臨床応用につながる可能性がある。

不安定プラークの同定、およびプラーク破綻の機序解明に関する研究

近年急性冠症候群(ACS)は必ずしも高度狭窄を認める部位に発症せず、不安定プラークが存在する部位にプラークの破綻を基に発症することが知られている。不安定プラークの特徴が近年IVUSやOCTにより解明が進んでおり、ACS剖検例では病理学的にプラーク破綻の特徴が報告されている。

プラーク破綻部位には脆弱な血管や血腫の存在が示されており、我々はプラーク破綻モデルを用いて、これらの脆弱血管や血腫に対する抑制効果を示せる生理活性物質などを模索している。

主要論文

Takahashi M, Suzuki E, Kumano S, Oba S, Sato T, Nishimatsu H, Kimura K, Nagano T, Hirata Y. Angiopoietin-1 mediates adipose tissue-derived stem cell-induced inhibition of neointimal formation in rat femoral artery. Circ J. 2013;77(6):1574-84.

Oba S, Suzuki E, Nishimatsu H, Kumano S, Hosoda C, Homma Y, Hirata Y. Renoprotective effect of erythropoietin in ischemia/reperfusion injury: possible roles of the Akt/endothelial nitric oxide synthase-dependent pathway. Int J Urol. 2012;19:248-55.

Kiyosue A, Nagata D, Myojo M, Sato T, Takahashi M, Satonaka H, Nagai R, Hirata Y. Aldosterone-induced osteopontin gene transcription in vascular smooth muscle cells involves glucocorticoid response element. Hypertens Res. 2011 Dec;34(12):1283-7.

Tanaka K, Nagata D, Hirata Y, Tabata Y, Nagai R, Sata M. Augmented angiogenesis in adventitia promotes growth of atherosclerotic plaque in apolipoprotein E-deficient mice. Atherosclerosis. 2011 Apr;215(2):366-73.

Oba S, Kumano S, Suzuki E, Nishimatsu H, Takahashi M, Takamori H, Kasuya M, Ogawa Y, Sato K, Kimura K, Homma Y, Hirata Y, Fujita T. miR-200b precursor can ameliorate renal tubulointerstitial fibrosis. PLoS One. 2010 Oct 25;5(10):e13614.

Nagata D, Hirata Y. The role of AMP-activated protein kinase in the cardiovascular system. Hypertens Res. 2010 Jan;33(1):22-8.

Nagata D, Kiyosue A, Takahashi M, Satonaka H, Tanaka K, Sata M, Nagano T, Nagai R, Hirata Y. A new constitutively active mutant of AMP-activated protein kinase inhibits anoxia-induced apoptosis of vascular endothelial cell.Hypertens Res. 2009 Feb;32(2):133-9.

Takahashi M, Suzuki E, Oba S, Nishimatsu H, Kimura K, Nagano T, Nagai R, Hirata Y. Adipose tissue-derived stem cells inhibit neointimal formation in a paracrine fashion in rat femoral artery. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2010 Feb;298(2):H415-23.

Nishimatsu H, Suzuki E, Takeda R, Takahashi M, Oba S, Kimura K, Nagano T, Hirata Y. Blockade of endogenous proinflammatory cytokines ameliorates endothelial dysfunction in obese Zucker rats.Hypertens Res. 2008 Apr;31(4):737-43.

Takeda R, Suzuki E, Takahashi M, Oba S, Nishimatsu H, Kimura K, Nagano T, Nagai R, Hirata Y. Calcineurin is critical for sodium-induced neointimal formation in normotensive and hypertensive rats. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2008 Jun;294(6):H2871-8.

Takahashi M, Suzuki E, Takeda R, Oba S, Nishimatsu H, Kimura K, Nagano T, Nagai R, Hirata Y. Angiotensin II and tumor necrosis factor-alpha synergistically promote monocyte chemoattractant protein-1 expression: roles of NF-kappaB, p38, and reactive oxygen species. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2008 Jun;294(6):H2879-88.

Nagata D, Takahashi M, Sawai K, Tagami T, Usui T, Shimatsu A, Hirata Y, Naruse M. Molecular mechanism of the inhibitory effect of aldosterone on endothelial NO synthase activity. Hypertension. 2006 Jul;48(1):165-71.

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