血管内皮グループの研究内容

本プロジェクトは血管内皮機能の基礎的な検討結果をもとに、臨床的な知見を集積すべく研究をすすめてきた。その中で複数の他分野の先生方との共同研究を行い、複数の分野における血管機能の臨床的意義づけについて探索してきた。

研究内容

臨床現場ではFlow-mediated dilation法(FMD)を用いて肘動脈の血管径の駆血解放後の変化を観察し、これを用いて血管機能を評価した。その方法を用い、臨床的に血管内皮機能と各疾患群との関連を調べるため、他分野の複数の専門グループと共同で研究プロジェクトを進めてきた。まず検診部にて特に基礎疾患のはっきりしない患者を対象に上肢と下肢の血管機能の比較検討をFMDを用いてを行った。これは「血管機能が全身で同じか、あるいは部位によって異なるか」というテーマであるが、技術的に下肢の測定が難しく、難渋した。帝京大学検査部からの渡辺彰吾先生とは共同で血管内皮機能と自律神経機能の関連について、虚血性心疾患の患者を対象に検討を行い、それら二つの関連について発表した。当研究ではFMD検査中に採取したR-R間隔のdataをもとに自律神経機能の算出を行った。結果として上肢の血管機能と自律神経機能には関連が見られ、これらを綜合したマーカーがより心臓疾患のイベントを正確に予測することが示された(図1) 1)

図1 自律神経マーカー(LF/HF)と血管内皮機能

また当時までに他の施設より動脈硬化と血管内皮機能の関連についてはすでに数多く報告されていたため、当グループでは動脈硬化疾患とは別の他疾患と血管内皮機能との関連に注目し、検討をすすめた。例えば皮膚科、高橋岳浩先生、浅野善英先生と共同で強皮症患者のFMDによる血管内皮機能と病状との関連について検討を行った2)。SLEや強皮症では病状とあわせて末梢の血管障害が進行し、これに際してエンドキサンなどの免疫抑制治療がおこなわれる。この治療過程で血管機能を測定すると、血管の機能、エコーで確認される内膜肥厚ふくめ著明な変化を確認した。このように膠原病治療過程における血管機能の変化についても検討をすすめ、皮膚科及び当科からいくつか報告した(図2)。

図2 限局型強皮症患者の病歴と血管機能の関連

図3 マルファン症候群における上行大動脈径と血管機能の関連

他に、当院のマルファン外来と共同で、マルファン患者における血管内皮機能について検討し、それが大動脈拡張と関連があることを見出した(図3)。心臓外科・病理部とも共同で、大動脈弁狭窄症の手術症例を対象に、上肢血管の血管機能と手術時に採取した大動脈弁の病理所見との比較検討を行った。病理所見については特に血管内皮との関連の強いendothelial nitric oxide synthase(eNOS)と活性酸素のマーカーであるnitrotyrosineについて免疫染色を行い、末梢動脈の血管機能と狭窄弁の内皮マーカーとの関連を検討し、血管機能と弁病理の血管機能とは必ずしも関連がないことを示した3)。大動脈手術患者の検討では大動脈弁手術前後に末梢血管の機能がどのように変化するかという点にも着目し、手術後に血管機能が有意に改善、また肘動脈の血管径が血管機能改善の程度を有意に予測することを示した。FMD法で評価した血管内皮機能を主要評価項目としてランダム化臨床試験も遂行した。虚血性心疾患の患者を対象に直接的レニン阻害薬であるアリスキレンを使用し、使用群とコントロールのFMD値の変化について検討した。少数例よりなる臨床試験であったが、論文化して報告するまですすめることができた4)。心不全と血管内皮機能との関連という意味からは、重症心不全患者の補助人工心臓装着後の血管機能について渡邉綾先生が研究データを蓄積し、機種による血管機能の変化について検討をすすめている。
現在は糖尿病・代謝科、岡崎啓明先生と共同で東京大学の検診を利用して、前向きの若年脂質異常患者の血管内皮機能の研究をすすめている。
FMD法ではない血管機能評価法の探索も行った。前出の渡辺彰吾先生と共同で、血管径の変化のゆらぎについて周波解析を行い、血管径の変動の高周波成分が炎症反応と関連があることについて見出した(図4)5)

図4 血管径の経時的変化

他に血管の拍動変化と虚血性心疾患の血管障害についても関連を検討した。駆血刺激を加えたのちに血管を開放した場合、拍動が一時的に強調される場合と減弱する場合があるのを認め、この変化が虚血性心疾患の有無と大きく関係していたことを示した。血管機能評価法についてはなかなか血液成分のマーカーがないのが現状であるが、Hitachi chemicalとの共同研究において、血液中を流れるvesicle内のmRNAの中で血管機能を正確に予測するものがないか、複数の種類のmRNAと血管機能との関連を調べるなど、探索的な研究についてもすすめた。
以上のように血管機能のさまざまな疾患の状態との関連について探索を進めてきたが、これらに引き続き、血管機能と他のシステムとの関連もすすめていった。前述の自律神経系と血管機能の関連も一つであるが、血球成分も血管機能と関連することがしられている。特に赤血球はNOの授受なども関連して血管機能に密接な関わりあり、この関連について報告した。他に骨格筋と血管機能の関連といった具合に、システム―システム間の関連という意味において血管機能の役割について解析をすすめた。

主要論文

1. Watanabe S, Amiya E, Watanabe M, Takata M, Ozeki A, Watanabe A, Kawarasaki S, Nakao T, Hosoya Y, Omori K, Maemura K, Komuro I, Nagai R. Simultaneous heart rate variability monitoring enhances the predictive value of flow-mediated dilation in ischemic heart disease. Circ J. 2013;77(4):1018-25.

2. Takahashi T, Asano Y, Amiya E, Hatano M, Tamaki Z, Takata M, Ozeki A, Watanabe A, Kawarasaki S, Taniguchi T, Ichimura Y, Toyama T, Watanabe M, Hirata Y, Nagai R, Komuro I, Sato S. Clinical correlation of brachial artery flow-mediated dilation in patients with systemic sclerosis. Mod Rheumatol. 2014 Jan;24(1):106-11.

3. Takata M, Amiya E, Watanabe M, Shintani Y, Sakuma K, Saito A, Fukayama M, Ono M, Komuro I. Phenotypic differences in aortic stenosis according to calcification grade. Int J Cardiol. 2016 Aug 1;216:118-20.

4. Ozeki A, Amiya E, Watanabe M, Hosoya Y, Takata M, Watanabe A, Kawarasaki S, Nakao T, Watanabe S, Omori K, Yamada N, Tahara Y, Hirata Y, Nagai R. Effect of add-on aliskiren to type 1 angiotensin receptor blocker therapy on endothelial function and autonomic nervous system in hypertensive patients with ischemic heart disease. J Clin Hypertens (Greenwich). 2014 Aug;16(8):591-8.

5. Watanabe S, Amiya E, Watanabe M, Takata M, Ozeki A, Watanabe A, Kawarasaki S, Nakao T, Hosoya Y, Nagata K, Nagai R, Komuro I. Elevated C-reactive protein levels and enhanced high frequency vasomotion in patients with ischemic heart disease during brachial flow-mediated dilation. PLoS One. 2014 Oct 9;9(10):e110013.

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