今後増加の一途をたどることが予想されるACHD患者に対する循環器内科医師による診療は至急確立される必要があるが、ACHD患者を診る循環器内科側にはその準備がないのが現状である。また、小児科がこのまま管理を続けるのも現実的に困難である。小児科側としては、マンパワー不足、入院病棟の小児特異性、循環器以外を含め成人病一般に対する小児科医師の理解・経験不足など、非常に大きな問題が存在している。 また、早急に診療ガイドライン構築も必要だが、それに必要なevidence based medicine (EBM)が存在せず、個々の症例が多彩であるため臨床トライアルは容易ではなく、今後もEBM作成は困難を極めることが容易に想像できる。
つまり、循環器内科医師の参入は必須と思われるも、先天性心疾患の臨床経験が乏しい循環器内科医師がこの分野に入っていくこと自体が極めて困難な状況であるというのが現状である。
そこで、東京大学医学部附属病院循環器内科(東大循環器内科)は、こういった種々の問題点の解決を図るべく、2008年4月成人先天性心疾患専門外来を開設した(担当医:八尾厚史)。
ACHD専門外来では外来日を小児循環器専門医師および小児心臓外科医師と同一の曜日に合わせ、紹介患者を循環器内科担当医師に紹介しやすくした。また、同時に循環器内科医師からの小児循環器医師や小児心臓外科医師への相談を行いやすくした。これにより循環器内科医師のACHD診療における経験不足やそれによる不安を現場でカバーできうると考えている。
診療実績からみたACHD診療の要件
本外来開設以降から2012年2月までの診療実績を図2と表1に示す。図2に示されたグラフのデータは、新たにこの専門外来に紹介された患者数である。
複雑心奇形が72例(69%)で、定期的通院を要する例が68名(65%)であり、しかもその半分が要手術修復/要カテーテル治療もしくは侵襲的治療不能例ということからも非常に重症率の高い疾患群であることが分かる。その合併症背景をみても循環器内科の心不全・不整脈・肺高血圧に関する総合的知識を要求され、本外来がいかに難しい外来であるかは想像にも難くない。
原疾患である先天性心疾患の内訳を表1に示す。ファロー4徴症(TOF)が21%と最も多く、次いで心室中隔欠損症(VSD)17.1%と続き、次の心房中隔欠損症(ASD) 8.6%を含めると約半数に達し、この半数は循環器内科医師にもすでに馴染みのある疾患群であり循環器内科医師でも十分対応が可能ではないかと考えられる。
循環器内科医師に馴染みの薄い疾患群の主な疾患としては、三尖弁閉鎖/単心室(TA/SV) 8.6%、大血管転位(TGA) + 先天性修正大血管転位(ccTGA) 7.6%+2.9%、房室中隔欠損/心内膜症欠損(AVSD/ECD) 7.6%そして肺動脈閉鎖-心室中隔欠損/ファロー4徴症-肺動脈閉鎖(PA-VSD/TOF-PA) 4.8%で30%以上を占めることになる。
これらの疾患群は、治療後とはいってもその血行動態や合併症は単純ではない。Fontan循環患者はその最たるものであり5名存在する。また、肺高血圧合併例が4名うちEisenmenger症候群が3名など、その治療方針や管理を考えた場合、Fontan循環や肺高血圧の理解が必要になり、小児循環器科医師のサポートがあったとしても循環器内科医師自体に肺循環/肺高血圧の知識が必要とされる。この点は、ヨーロッパにおける肺高血圧ガイドラインにも指摘・記載されている(Eur Heart J. 2009;30:2493-2537) 。
成人先天性心疾患外来の今後
表や図にも示されている通り、本疾患患者数は当院で100名を越している。今後、循環器内科医に通院するACHD患者は増加傾向にあると考えられるため、何らかの現実的な対応策が必要であると思われる。具体的には、病診連携を地域で作っていく必要がある。東京都での成人先天性心疾患基幹病院と市中病院の連携により、重症度と通院事情に応じた通院病院の決定により患者を適切に振り分け、全体としての把握を基幹病院(東大病院など)で行うという形である。この方法で、東京都としての成人先天性心疾患患者の管理を行っていく必要があると思われる。
地域全般のACHD管理体制にとっては非常に重要と考えられる。東大循環器内科は、この分野の診療の発展のため今後も本専門外来を通して日本及び地域をリードしていく責務を果たしていければと考えている。
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