システム循環器学グループの研究内容

個体を構成する臓器・細胞・分子・遺伝子、それぞれのレベルの要素が有機的に繋がる生命としてのシステムを解き明かし、循環器学の謎に迫ります

研究内容について

(1) 心筋メカノバイオロジー機構の解明による心不全治療法の開発
心臓は収縮と弛緩を繰り返し、循環という物理的力を生み出す仕事を担う一方、心臓自体も物理的刺激(メカニカルストレス)に常にさらされています。高血圧や心筋梗塞、弁膜症などにより心臓に機械的な負荷が加わると、心臓は壁ストレスを減少させるように代償的に肥大します。当初肥大した心臓の収縮機能は正常ですが、心筋細胞内で様々な変化が起こり、最終的に代償機序が破綻することによって、収縮機能が低下し、心不全を発症します。すなわち、心不全は心臓におけるメカニカルストレス応答機構の破綻と考えられます。私たちは心筋メカノバイオロジー機構の本質を明らかにすることで、心不全発症の本態を解明し、それを標的とした治療法の開発に取り組んでいます。

(2) 心不全発症における心筋細胞不均一性の意義
心不全の発症過程で個々の心筋細胞は一様にストレスを受けているわけではなく、血管からの距離・心筋細胞の走行・周囲の細胞との相互作用が個々の細胞で異なるように、ストレス応答に不均一性があり、そこには経時的な変化を伴っていると考えられます。そこで私たちは心臓の細胞応答をシングルセルレベルで解析できる必要性を感じ、独自に解析技術を確立してきました。さらにストレスの受け方によって細胞形態に違いが生じることも考えられます。このように心筋細胞の空間的・時間的・形態的な細胞応答不均一性を分子レベルの挙動と合わせて解析することで心筋細胞不均一性の意義に迫る研究を進めています。

(3) マルチオミックス連関による循環器疾患における次世代型精密医療の実現
循環器疾患にも遺伝的要因が大きく関係することが知られており、個々の患者の病態を把握する上でゲノム要因を無視することはできません。またゲノム要因以外にも多くの環境要因が疾患原因細胞に多くの重大な影響を及ぼしています。その影響である遺伝子発現プロファイルをトランスクリプトームとして、遺伝子制御状態をエピゲノムとして抽出してゲノム要因と合わせて本質的な循環器疾患の発症メカニズムを明らかにすることを目指しています。私たちはこれらの解析をシングルセルレベルで行う基盤技術を独自に構築しているため、新しい技術を取り込んで素早く応用・発展できる強みを持っています。
 また遺伝的要因が強く影響している心筋症に対しては、100を超える既知の心筋症原因遺伝子の変異を一括で素早く解析できるターゲットシークエンス法を常時行っており、現在20を超える大学病院・市中病院との共同研究を進行中です。そして随時、全国から解析検体の受け入れを行っています。

(4) iPS細胞由来心筋細胞を活用した遺伝性拡張型心筋症の病態解明と治療薬開発
ヒト重症心筋症変異ノックインマウス樹立~新規心不全モデル確立と病態・治療の解明
遺伝性拡張型心筋症の発症に関係する遺伝子変異をゲノム解析により捉え、患者由来iPS細胞・変異導入マウス・患者組織検体を用いた多角的な解析により、その変異がいかに心筋細胞異常を引き起こすかというメカニズムを解明し、それを標的とする治療法の開発を目指しています。疾患iPS細胞研究の詳細は、疾患iPS部門の研究ページをご参照ください。

(5) 心臓発生・心筋細胞分化における核内クロマチン高次構造の動態と制御
心臓発生・心筋細胞分化の過程は細胞状態のダイナミックな変化であるため心臓疾患原因細胞における重要なエピゲノム・遺伝子発現制御機構の本質が詰まっており、その詳細な理解は循環器疾患の発症解明において必須と考えています。これまで発生過程において活性型エピゲノム制御の理解は大きく進んだものの、抑制型エピゲノム制御の理解はポリコーム複合体による制御を除いてそれほど進んでいません。そこで私たちは心臓発生・心筋細胞分化をモデルとして、抑制型エピゲノム制御の中心的課題である核内クロマチン高次構造やヘテロクロマチンが活性型エピゲノムとどのように関係するかの本質的理解に迫ることを目指しています。

(6) 心臓ストレス応答における個体シングルセル四次元ダイナミクス
生体組織がストレスに対して適応し修復する過程では、個体内で多臓器が連関した細胞・分子の相互作用・挙動、そしてそれに伴った細胞のリモデリングといった四次元ダイナミクス機構が働いており、その機構の破綻は疾患発症に直結しています。私たちは心臓に対するストレス応答の多臓器連関性をシングルセル解析することで、臓器間・臓器内のどの細胞・分子の相互作用・挙動が適応修復に貢献するか、各臓器においてどの細胞がどのような系譜を辿ってどのような機能を発揮するか、といった問題の解明に取り組んでいます。

臨床研究について

「心筋生検検体による心不全予後予測評価法の確立」に関して
当院にて心筋生検を行なった方とそのご家族へ

主要論文

Ito M, Hara H, Takeda N, Naito AT, Nomura S, Kondo M, Hata Y, Uchiyama M, Morita H, Komuro I. Characterization of a small molecule that promotes cell cycle activation of human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocytes. J Mol Cell Cardiol. 2019;128:90-95.

Satoh M, Nomura S, Harada M, Yamaguchi T, Ko T, Sumida T, Toko H, Naito AT, Takeda N, Tobita T, Fujita T, Ito M, Fujita K, Ishizuka M, Kariya T, Akazawa H, Kobayashi Y, Morita H, Takimoto E, Aburatani H, Komuro I. High-throughput single-molecule RNA imaging analysis reveals heterogeneous responses of cardiomyocytes to hemodynamic overload. J Mol Cell Cardiol. 2019;128:77-89.

3. Nomura S. Genetic and non-genetic determinants of clinical phenotypes in cardiomyopathy. J Cardiol. 2019;73(3):187-190.

Morita H, Komuro I. Outcomes of Cardiac Screening in Adolescent Soccer Players. N Engl J Med. 2018;379:2083-4.

Nomura S, Satoh M, Fujita T, Higo T, Sumida T, Ko T, Yamaguchi T, Tobita T, Naito AT, Ito M, Fujita K, Harada M, Toko H, Kobayashi Y, Ito K, Takimoto E, Akazawa H, Morita H, Aburatani H, Komuro I. Cardiomyocyte gene programs encoding morphological and functional signatures in cardiac hypertrophy and failure. Nat Commun. 2018;9:4435.

Ito M, Nomura S. Cardiomyopathy with LMNA Mutation. Int Heart J. 2018;59:462-464.

Tajima T, Morita H, Ito K, Yamazaki T, Kubo M, Komuro I, Momozawa Y. Blood lipid-related low-frequency variants in LDLR and PCSK9 are associated with onset age and risk of myocardial infarction in Japanese. Sci Rep. 2018;8:8107.

Morita H, Komuro I. Somatic Activating KRAS Mutations in Arteriovenous Malformations of the Brain. N Engl J Med. 2018;378(16):1561.

Tobita T, Nomura S, Fujita T, Morita H, Asano Y, Onoue K, Ito M, Imai Y, Suzuki A, Ko T, Satoh M, Fujita K, Naito A , Furutani Y, Toko H, Harada M, Amiya E, Hatano M, Takimoto E, Shiga T, Nakanishi T, Sakata Y, Ono M, Saito Y, Takashima S, Hagiwara N, Aburatani H, Komuro I. Genetic basis of cardiomyopathy and the genotypes involved in prognosis and left ventricular reverse remodeling. Sci Rep. 2018;8:1998.

Tobita T, Nomura S, Morita H, Ko T, Fujita T, Toko H, Uto K, Hagiwara N, Aburatani H, Komuro I. Identification of MYLK3 mutations in familial dilated cardiomyopathy. Sci Rep. 2017;7:17495.

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