心血管病態解析グループの研究内容

 遺伝要因と環境要因が心血管系に及ぼす作用機序を解析し、個体の恒常性維持や心血管疾患発症のメカニズムの解明、さらに新たな治療法の開発を目指します。

現在のテーマ:
①遺伝性動脈疾患の遺伝子解析と分子病態の解明
②腫瘍循環器領域の診療と研究
③心臓と腸を結ぶ心腸連関の研究について

遺伝性動脈疾患の遺伝子解析と分子病態の解明

 遺伝性大動脈瘤・解離症や肺動脈性肺高血圧症などの難治性血管疾患に対する遺伝学的検査を実施し、患者さんの臨床情報や手術検体などの患者試料を用いて、遺伝子型と表現型との関連性や病因変異の機能解析、未知原因遺伝子の探索、疾患モデルマウスを用いた病態解析研究などを行っています。
 マルファン外来の詳細については、こちらをご覧ください。

腫瘍循環器領域の診療と研究

 近年がん治療の進歩と人口の高齢化により悪性腫瘍と心臓病を合併する症例が増加しています。特に昨今開発が相次いでいる新規がん治療薬、中でも分子標的薬は多彩な心血管合併症を引き起こし、その後の治療方針や予後に影響を与えることがあるため、腫瘍専門医と循環器専門医による連携診療の必要性が高まっています。
 このような状況を鑑み、当科では2018年4月より腫瘍循環器領域の専門外来を開設し、担癌患者の治療中に起こる心血管合併症の診療や、循環器疾患を抱えた担癌患者のがん治療が円滑に行われるサポートをするために、主に下記の領域を担当しております。

 (1) がん治療前、特に化学療法前の心機能評価
 (2) がん治療中あるいは後に出現した心血管疾患の診断と治療
 (3) 心臓病を有する患者のがん治療における心臓病増悪のリスクの評価と管理
 (4) 心血管合併症のリスクが高いがん患者の外来フォロー
 (5) がんサバイバーの長期外来管理

 腫瘍循環器外来を受診される患者数は増加の一途をたどっており、今後どのような症例が循環器内科の受診、さらには循環器的な介入を必要とするのか、につき新たな知見を発信することを目標としています。また基礎研究分野では、がん、がん治療薬(特にアントラサイクリン)、心筋障害の関係性に着目し、主にがんの動物モデルを用いた研究を進めております。このように臨床分野・基礎分野、両方からの検討を追及することにより、腫瘍循環器学の発展に貢献できるよう日々研鑽しています。
 腫瘍循環器外来の詳細については、こちらをご覧ください。

心臓と腸を結ぶ心腸連関の研究について

 近年、心不全患者では腸上皮の構造および機能異常があり、炎症性サイトカインやエンドトキシンの上昇から心不全がさらに悪化する可能性が指摘され、腸内細菌叢と心不全病態との関連性が強く示唆されています。また、腸内細菌叢が食物を分解することによって得られた代謝物などは、各細胞・組織でエネルギーとして使用されるだけでなく、それぞれの受容体に作用することで細胞内シグナル伝達にも積極的に関与していることが明らかとなっています。
 我々は、当科に入院中のNYHA II~IV度の心不全患者と健常者を対象とした糞便のメタゲノム解析を行い、心不全患者では腸内細菌叢の構成異常が認められ、とくに短鎖脂肪酸産生菌が有意に減少していることを明らかにしました。「心腸連関」の妥当性を示す結果と考えており、心不全病態においては、腸内細菌の構成変化が生じた結果、短鎖脂肪酸が減少し、これがさらに心不全を増悪させる悪循環を引き起こしている可能性があります。
 現在、心不全病態における腸上皮バリア機能や腸内細菌叢変化についてさらに詳細な解析と関連した基礎研究を展開しており、とくに腸内細菌代謝物が心機能に与える影響とそのメカニズムの解明に強く興味を持っています。消化管・心血管系といった単領域の枠を超えて心不全の病態を明らかにし、基礎研究・臨床研究の両面から心不全の病態把握と新規治療法開発に向けた技術基盤構築を目指し、日々の研究に尽力しています。

主要論文

石田純一 and 赤澤宏. 本邦における腫瘍循環器病への取り組み. 循環器内科 2018; 83: 560-4.

Takeda N, Inuzuka R et al. Impact of Pathogenic FBN1 Variant Types on the Progression of Aortic Disease in Patients With Marfan Syndrome. Circ Genom Precis Med 2018; 11(6): e002058.

Hara H, Takeda N et al. Discovery of a Small Molecule to Increase Cardiomyocytes and Protect the Heart After Ischemic Injury. JACC Basic Transl Sci 2018; 3(5): 639-53.

Fujiwara T, Takeda N et al. Distinct variants affecting differential splicing of TGFBR1 exon 5 cause either Loeys–Dietz syndrome or multiple self-healing squamous epithelioma. European Journal of Human Genetics 2018; 26(8): 1151-8.

Kamo T, Akazawa H et al. Dysbiosis and compositional alterations with aging in the gut microbiota of patients with heart failure. PLoS One 2017; 12(3): e0174099.

Kamo T, Akazawa H et al. Novel Concept of a Heart-Gut Axis in the Pathophysiology of Heart Failure. Korean Circ J 2017; 47(5): 663-9.

Takeda N, Yagi H et al. Pathophysiology and Management of Cardiovascular Manifestations in Marfan and Loeys-Dietz Syndromes. Int Heart J 2016; 57(3): 271-7.

Takeda N, Morita H et al. A deleterious MYH11 mutation causing familial thoracic aortic dissection. Hum Genome Var 2015; 2: 15028.

Takeda N, Morita H et al. Congenital contractural arachnodactyly complicated with aortic dilatation and dissection: Case report and review of literature. Am J Med Genet A 2015; 167A(10): 2382-7.

Imai Y, Morita H et al. A deletion mutation in myosin heavy chain 11 causing familial thoracic aortic dissection in two Japanese pedigrees. Int J Cardiol 2015; 195: 290-2.

Fujita D, Takeda N et al. A novel mutation of TGFBR2 causing Loeys-Dietz syndrome complicated with pregnancy-related fatal cervical arterial dissections. Int J Cardiol 2015; 201: 288-90.

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