労作性狭心症

冠動脈の狭窄のため心筋への血流が減少し、おもに階段を登るなどの運動時に胸部症状が生じる疾患です。

治療に関するご相談は外来のご案内へ

治療に関しては安定狭心症に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)のページへ

症状

胸の圧迫感や締め付け感、痛みが生じます。肩や左腕、のど、歯へも広がることがあります。 労作性狭心症では、歩行や階段などの労作によって症状が生じ、安静にすると治まります。食後や寒冷時などに増悪することがあります。高齢の方や糖尿病のある方では、典型的な症状に乏しいことがあります。 症状の回数が増える、安静時にも症状が生じるなどの場合は、不安定狭心症と呼ばれます。心筋梗塞に移行する可能性が高くなっていると考えられており、緊急に治療する必要があります。 なお、冠動脈に狭窄があり虚血が生じても症状を認めない場合、無症候性心筋虚血と呼ばれます。この場合も治療の対象となります。

原因・病態

多くの場合、動脈硬化によって冠動脈が狭くなることにより生じます。動脈硬化を促進する因子としては、高血圧、脂質代謝異常、糖尿病、喫煙などが知られています。なお、冠動脈が一時的に痙攣するために起こる狭心症もあり、冠攣縮性狭心症(安静時狭心症、異型狭心症)と呼ばれます。

発生原理イメージ

検査・診断の方法

*問診
症状が典型的な場合、狭心症を疑うのは比較的容易です。さらに以下のような検査を行い、診断を進めます。
*運動負荷心電図(トレッドミル検査)
安静時の(無症状時の)心電図からは狭心症であるかわかりません。運動負荷試験では、ベルトコンベアー上を歩いて頂くトレッドミルなどにより負荷をかけ、心電図に現れる変化から狭心症らしいかどうか、またどの程度運動が可能かを知ることができます。
*心臓超音波検査(心エコー)
心臓超音波検査では、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能などを評価します。虚血がある場合に、左心室の壁運動に異常がみられることがあります。
エコー画面
*心臓核医学検査(心筋シンチグラム)
微量の放射性物質で標識した薬剤を静脈に注射し、心筋の血流の様子などを評価することができます。運動負荷や薬物負荷試験と組み合わせることによって、より詳細に虚血の部位や範囲を評価できます。

診断画像

*冠動脈CT
造影剤を静脈注射し、心電図と同期させながらCT(コンピュータ断層撮影)をとることで、冠動脈の狭窄の有無を診断します。画像診断装置の進歩により、非侵襲的に冠動脈の性状を評価できるようになりました。但し脈の速い方や不整脈のある方、冠動脈石灰化が強い方では評価が難しいこともあります。
これらの検査の結果、狭心症が強く疑われる場合には、通常心臓カテーテル検査が行われます。

正常冠動脈と狭窄の認められる冠動脈の比較写真

*心臓カテーテル検査
カテーテルという細長いチューブを手首や肘、足の付け根の血管を通して心臓まで挿入し、造影剤を注射して冠動脈のX線撮影を行います。冠動脈の狭窄の程度、部位、病変数などを詳細に評価でき、冠動脈疾患を診断するのに最も正確な評価が出来る検査です。また、左室造影で心臓の壁運動の評価をしたり、右心カテーテル検査で心臓の部屋の圧力や心拍出量を測定したりすることができます。 “当院では、心臓カテーテル室を3室有しており、毎日虚血性心疾患、不整脈、心不全の治療を行っています。

心臓カテーテル検査の様子

冠動脈に狭窄病変が認められた際に冠動脈狭窄病変がどの程度重症かを評価するため、冠血流予備量比(FFR)や安静時虚血指標(iFR/dFR/RFRなど)といったカテーテル検査中に機能的な虚血評価を行うことが現在重視されています。狭窄部位にプレッシャーワイヤーを通し、前後での圧測定を行います。FFRを行う際は血管拡張剤を使用が必要で、その他の指標(iFR/dFR/RFR)では薬剤の使用を行わずに評価することが可能です。当院でも積極的に本検査を行っています。

治療

狭心症と診断された場合、薬物治療、カテーテル治療、バイパス手術のいずれかあるいは複数を組み合わせた治療が必要になります。

*薬物治療
抗血小板薬(アスピリンなど)、硝酸薬、ベータ遮断薬などが用いられます。冠攣縮性狭心症ではカルシウム拮抗薬が有効です。
*心臓カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術:PCI);冠動脈ステント(薬剤溶出性ステントなど)留置術、その他の治療
腕や足の血管からカテーテルを挿入し、冠動脈病変の治療を行います。通常は病変部を風船で拡張するバルーン治療、ステント(金属メッシュの筒)の留置を行います(図1)。再狭窄(治療部位がまた狭くなること)の頻度が少ない薬剤溶出性ステントによる治療を行っております。薬剤溶出性ステントは良好な治療成績を得ていますが、このステントを使用した場合、長期に抗血小板薬を服用する必要があります。ステント再狭窄に対しては、昨今は薬剤溶出性バルーンでの治療も可能です。また、強い石灰化や多量な血栓、繰り返すステント再狭窄などの複雑病変に対しては、ロータブレーター、ダイヤモンドバック、エキシマレーザーなどの特殊な治療法を追加することが可能です (図2)。慢性完全閉塞(CTO)に対する複雑治療も積極的に行っており、当院ではあらゆる病変に対して心臓カテーテル治療で対応できる体制となっています。治療は局所麻酔で行われ、バイパス手術に比べると侵襲度がより少ないため、多く行われている治療法です。
図1 冠動脈形成術およびステント留置術の実際
冠動脈形成術およびステント留置術の図1

図2 その他の心臓カテーテル治療術

冠動脈形成術およびステント留置術の図2

ロータブレーター:先端に微小ダイアモンド粒子をコーティングした先端を有するワイヤーを高速で回転させ、石灰化病変を切除する治療法

(フィリップス社から画像提供)

ダイヤモンドバック:中間膨大部にダイヤモンドコーティングされたワイヤーで高速回転させ、石灰化病変を切除する治療法

(フィリップス社から画像提供)

エキシマレーザー:エキシマからの放射光により、パルス発振するガスレーザによって、血栓や線維性組織を蒸散させる治療法

*冠動脈バイパス手術
カテーテル治療が困難な場合、全身麻酔下に動脈あるいは静脈の一部冠動脈につなぎ、新しい血流ルートを作る手術が行われます。閉塞を起こす可能性が少ない動脈グラフトが好まれますが、冠動脈に閉塞部位が複数ある場合は、下肢の静脈も使用されます。心臓を停止状態にさせ、人工心肺装置を使って行いますが、より侵襲度を下げるため、心臓を動かしたまま手術することもあります。

手術イメージ

*冠危険因子のコントロール
いずれの治療法を選択した場合でも、冠動脈疾患の危険因子をコントロールすることが不可欠です。高血圧や高コレステロール血症があればその治療が行われます。禁煙は必須です。適度な運動や肥満の是正も勧められます。

図の一部については、許可を受けた上で、転載しております。
著書名:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス
著者:山科章/出版社:トーアエイヨー

   このページの先頭へ