心不全

心不全は、心臓の血液拍出が不十分になり、必要な血液循環量を保てなくなる症状ないし病態のことです。

症状

つかれやすい、歩くなど軽い労作で息切れがする、横になると呼吸が苦しく、また特に朝方息苦しくなる、足がむくむ、などの症状が認められます。

原因・病態

心筋梗塞などの虚血性心疾患・心筋症・心筋炎などによる心臓の収縮力の低下や、高血圧・弁膜症・貧血などによる心臓への負荷の増大、徐脈性または頻拍性の不整脈など、種種の原因により心臓のポンプとしての機能が低下した状態を表します。からだに必要な酸素がたりなくなり息切れがしたり疲れやすくなる、足の甲やすねのあたりに水分がたまりむくみやすくなる、肺などの臓器に水分がたまり息切れを来しやすくなるなど、先に挙げたような症状を起こします。

検査・診断の方法

*全身の観察
心臓や肺の聴診、首の静脈の張りや腹部や足のむくみなど心不全で認められやすい所見の有無の確認などをします。
*心電図検査(12誘導心電図、24時間ホルター心電図)
心不全の原因として、狭心症や心筋梗塞の所見がないか、不整脈がないかなどを確認します。
*胸のレントゲン
心臓の大きさや、肺のうっ血の有無などを確認します。
*血液検査
貧血の有無、肝臓・腎臓など機能障害の有無などを調べ、全身状態を確認します。また心室に負担があると分泌される脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNPあるいはNT-proBNP)という物質を測り、心不全の重症度判定の参考にします。
*心臓超音波検査(心エコー検査)
心臓の全体像がわかります。左心室の収縮能力や、弁膜症の有無など、心不全の原因として心臓にどんな病気があるのかを調べます。
*心臓核医学検査
運動や薬物による心臓への負荷をかけた後に微量の放射性物質を投与して、負荷の直後および、数時間後の安静時に撮影を行い、心臓の収縮機能をみたり、心筋の血流の状態などを確認したりします。他には心臓の交感神経の具合をみて、心臓の障害の程度をみたり、また心臓に異常な蛋白が蓄積していないかみることができる検査もあります。
*右心カテーテル
スワンガンツカテーテルという専用の管(カテーテル)を用いて、右心系の各部位(右心房・右心室・肺動脈・肺毛細血管)の圧測定および、心臓の拍出量の測定を行います。これにより、心臓の機能・血行動態を評価します。
*心筋生検
カテーテルを用いて、1mm程度の心臓の筋肉を採取し、顕微鏡で病理学的に心筋を検査することができます。心筋の性状や、心筋に炎症などの変化がおきていないかなど、みることができます。
*冠動脈造影・心室造影(心臓カテーテル)検査心筋生検
足のつけ根や手首や肘の動脈から細い管(カテーテル)を入れて心臓の造影検査を行い、心臓を栄養する冠動脈に狭いところがないかや、心臓の機能を評価します。
*心臓MRI
心臓の機能を評価できるのに加えて、心臓の筋肉に障害があるか、炎症などがあるかなど、心臓の筋肉の性状を予測することも可能です。

治療

多くの心不全は、長い時間をかけて徐々に症状が進行していきます。心不全の治療は、この進行を抑えることにより、生命予後を改善すること、さらに症状を改善して日常生活をより快適に過ごせるようにすること、を目標に行います。

この目標に向けて、塩分制限などの生活スタイルの改善を行い、次に薬物療法、適度な運動をする運動療法を行います。さらに重症例では手術を含めた侵襲的治療、さらには補助人工心臓や心臓移植などが行われることがあります

*薬物療法
外来での慢性心不全の治療では、むくみをとるために利尿剤を用いたり、過度の交感神経刺激を遮断することにより心臓を休ませて保護する目的でβ遮断薬を用いたり、心筋を保護する目的でアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬を用います。最近ではSGLT2阻害薬といって糖分を尿に排泄する糖尿病薬が、心臓の負担も軽減することができ、使用することがあります。
*侵襲的治療
処置により改善をさせることができる原因疾患がある場合、それに対する手術やカテーテル治療を行います。
(1)冠動脈の血行再建
心臓に酸素や栄養を運んでいる血管である冠動脈に狭窄部分があり、これが心筋の収縮力に影響を与えている方には、カテーテルによる経皮的冠動脈形成術や、冠動脈バイパス手術などにより、冠動脈の血流を再建することを検討します。(虚血性心疾患へのリンク)
(2)弁形成術・弁置換術
心臓の弁の障害が心不全の原因である方には、弁の修復手術をするか人工弁にとりかえる手術を検討します。最近ではカテーテルを用いた弁の治療も可能になっています。
(3)ペースメーカー治療
洞不全症候群や房室ブロックなどの除脈性不整脈が心不全の一因になっている場合は、ペースメーカー植え込み術が検討されます(ペースメーカー植え込み術へのリンク)。
(4)心臓再同期療法(CRT)
心臓は電気信号が順序良く伝わることによって収縮します。ところが、心筋梗塞などの虚血性心疾患、心筋症など、心臓に何らかの障害が起こり、心臓の中で電気信号の伝わる順番にずれが起きることがあります。このような場合に、心臓(とくに左心室)の中隔(左右を境する壁)と自由壁(右室に接しない左室自体の壁)に電気が伝わるタイミングが大きくずれるため、心室の動きもその電気信号の伝わり方同様にタイミングがずれた動きをします。これを心室同期障害といいます。心臓の収縮力が低下している方に、心室同期障害が有ると、さらに収縮の効率が悪化します。このタイミングのずれを左室自由壁と右室心尖部の2箇所に電極を置き、ここへ人工的に電気信号を送って心室を刺激することで電気の伝わるタイミングの足並みをそろえることにより、心臓の収縮の効率を改善する治療が心臓再同期療法(CRTです。心臓再同期療法は世界中で行われており、いくつかの大規模臨床試験にてその有効性が証明されています。心肺運動耐容能、NYHA分類(心不全症状の重傷度分類)の改善や、死亡および心不全入院のリスクを低下させたとの報告があります。
(5)植え込み型除細動器(ICD)
心不全では、心室頻拍・心室細動などの重症不整脈を合併することもあり、この場合には、これらの不整脈を停止させる除細動機を植え込む手術を検討します。
最近では、さらに新しい治療として、心不全に重症心不全を合併した症例では、CRTに植え込み型除細動器を合わせたCRT-Dという治療を行う場合があります。
*最近の動向
社会が高齢化するにつれて心不全の罹患数が増える傾向にあり、日本は世界の中でも高齢化が進んでおり、日本における心不全の患者数増加、その社会的インパクトの増加はより深刻となりつつあります。最近では心臓の収縮機能が維持されているHFpEF(ヘフペフ)の増加が顕著であることが報告されており、今後の治療が検討されています。また心不全の原因として「アミロイドーシス」についても新しい治療薬が開発されてきています。当科ではトランスサイレチンアミロイドーシスに対する治療薬であるタファミディスの処方ができる認定施設であり、トランスサイレチンアミロイドーシスの患者さんにも治療をご案内することが可能であり、ご紹介をお受けしています(窓口医師:石田・網谷)。

   このページの先頭へ