Gタンパク質共役型受容体は多くの医薬品のターゲットとして機能し、今もその働きが注目されています。この受容体群の研究を軸に循環器領域における新たな創薬シーズの発見を目指します
Gタンパク質共役型受容体は多くの医薬品のターゲットとして機能し、今もその働きが注目されています。この受容体群の研究を軸に循環器領域における新たな創薬シーズの発見を目指します
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、ペプチド、核酸、脂質などを含む多種多様な物質に対して応答を示す受容体群である。現在上市されている医薬品の約4割がGPCRを標的分子としていることから、GPCRは創薬における魅力的なターゲットの一つである。ゲノムプロジェクトの完了に伴い、ゲノム中にはGPCR様構造を持つ分子が約1000種類もあり、その中には内因性リガンドが未だ不明なオーファン受容体も数多く(現時点において約100種類)存在することが明らかとなった。 そこでこれらオーファンGPCRに対する内因性リガンド探索研究が逆薬理学的手法(reverse pharmacology)を用いて1990年代中頃より精力的に行われた。
当研究グループの池田、熊谷が以前所属していた米国テキサス大学の研究室において、オーファン受容体に対する内因性リガンドとしてオレキシンペプチドが単離同定された(Sakurai et al. Cell 1998:92, 573-85)。その後、脳内オレキシン系が睡眠覚醒の制御に重要であることが明らかとなり、これらの知見を基にオレキシン受容体拮抗薬が新規睡眠導入剤として開発され、現在実臨床において使用可能となっている(MSD社:ベルソムラ®)。しかしながら、2005年頃を境にこの研究分野は行き詰まりを見せ、未だ数多くのオーファン受容体が残存しているにもかかわらず、研究者は徐々にこの分野より撤退していった。しかし我々は、オレキシンの発見が実際に創薬に結びついた事実を重要視し、新たなGPCRリガンドの探索研究は新しい生体制御システムの発見をもたらすのみならず、それに基づく革新的な医薬品の開発に繋がる依然として夢のある重要な研究課題であると考えている。
我々は、従来より頻用されていたGタンパク質の活性化に依存したシグナル経路を指標としたスクリーニング系に替えて、ベータアレスチン経路に特化したスクリーニング系を樹立・運用することで、オピオイド中間体ペプチドがケモカイン受容体CXCR7の新たな内因性リガンドであることを発見した(Ikeda et al. Cell 2013:155,1323-36)。この成功体験から我々が実感した事は、従来とは異なった視点を有する新規アプローチを採用することで、この夢のある研究分野においていまだにインパクトのある研究成果を残せる可能性が十分にあるということである。
脂質性GPCRリガンドはその生理学的重要性が高く認識されているが、遺伝子にコードされていないためバイオインフォマティクスが利用しづらく、またその分子種の多様性や存在量の少なさから新規分子の同定は一般的には困難であると考えられてきた。実際に脂質をターゲットとした逆薬理学的手法による内因性GPCRリガンド探索研究が成功した事例は現時点においても稀である。しかし逆説的に言えば、工夫次第ではこれから更に新規脂質性GPCRリガンドを発見できる可能性が十分に残されているとも考えられる。そこで本研究グループでは、新たに着想したユニークな脂質画分調整法を導入することを通じて、脂質分子をターゲットにした新規リガンド−GPCRペアの同定を目指している。